架空プロレス団体DESTINY

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タツ・マモルのプロレスコラム 第1回 英雄ハーキュリーズの興亡史

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かつて、プロレス団体DESTINYに栄光をもたらしたひとりの英雄がいた。彼は団体の中で最も輝ける存在であり、ファンだけでなく、団体の関係者すら魅了した。でもその輝きはまるで流星のようだった・・・。

第1回、このプロレスコラムではDESTINYの伝説のスーパースター、ハーキュリーズの興亡について語りたい。ハーキュリーズといえばDESTINYに"ハーキュリーズ12の功業"という最も輝かしい栄光と発展をもたらしたマスクマンの英雄である。だが、それはあくまで光の部分にすぎない。彼のキャリアの最期はあのハーキュリーズ・シュート事件という団体最大の闇をもたらして、業界から去っていった。

シュートとは、プロレスの隠語(ガチンコ、セメントとも呼ぶ)で対戦相手に真剣勝負を仕掛けたり、潰しに掛かかったりすること。また本音の発言・批判等なども指す。簡単に言ってしまえば、"プロレスという舞台"の進行を無視・放棄することである。強引な喩えにはなるが、ヒーロー番組において、戦いの最中にやられ役の怪人が番組の主役であるヒーローに対して本気の蹴りやパンチで潰し掛かることはあり得ないだろう。まぁ、これもひとつの"暗黙の了解"である。

ハーキュリーズ・シュート事件は真夏のPPV(特番)「シャドー・オブ・ザ・サンシャイン」のハーキュリーズVSザ・フィニッシャー戦で起きた。

f:id:defensedragoncreation:20220702014329j:image事件の起きたPPV

この一戦は新旧スター対決とかなり期待されただけに、その後味の悪さがすさまじい。この事件に関して数々の考察や憶測が存在するが、今まで関係者が口を開くことはなかった。

しかし今回、元団体関係者のX氏が名前とかつての団体での具体的な役割について明かさないことを条件に協力してくれた。その件について関係者が口を開くのはこのコラムが初という、なんとも複雑な役割を担うことになり、誠に恐縮である。X氏はそれ以外のことについても詳しく事実を証言してくれており、その貴重な証言によって、このコラムは想定していた以上のボリュームとなった。本当にX氏には感謝してもしきれない。

また、X氏が協力をしてくれたのはある思いがあったからである。

X氏「まぁ、なんというかさ、この件については怒りというよりかはショックだったよね。まさかっていう・・・。魔が差したっていうのかな。でもさ、彼が何も語らずにこの業界から去っちゃったから、彼の代わりじゃないけど、誰かが話さなきゃっていう、変な使命感的なものがあってね。それに誰も語らないからこそ、変な憶測が出てくるじゃない?まぁ、憶測ってのは真実が明らかになっていないからこそ、出てくるものであって・・・。ある意味、今回証言するのは彼の為でもあるんだよね。良くも悪くも彼についての話をすることで、ファンに判断してもらいたいという・・・。」

DESTINY前史と英雄の誕生

DESTINYと聞けば、数々のスター選手を抱える人気絶頂のプロレス団体である。その勢いは止まることを知らず、最近では総合格闘技からプロレス転向を発表したニック・リーガンがデビューし、話題を呼んだ。リーガンはそもそも強豪であり、総合ファンからの支持も根強い。そんな彼がプロレスデビューの場にDESTINYに選んだということは、団体のブランド力を窺い知ることができるだろう。

今でこそDESTINYは大規模かつ力のある団体となっているが、立ち上げ当初は決してそうではなかった。一部のファンのみが知る程度で、現在のような独自性すら感じられなかった。X氏は団体の黎明期の事情から証言してくれた。

X氏「立ち上げ当初はとりあえず立ち上がったけど・・・、みたいな感じで、今と比べものにならなかったよ。しかも興行もそんなにできなかったし、団体のコンセプトも無いに等しかった。当時はフリーの選手にスポット参戦してもらって、そこでなんとかもってた。でも軌道に乗せるには団体のコンセプトが必要だぞってなって。まぁ、プロレスってのは不思議なもんで、魔界とか暗黒がどうのこうのとか、割と超自然的なものが受け入れられてる(笑)じゃあ、うちはそういうのをピンポイントでやるんじゃなくて、その風呂敷を広げようって。しかも、それだけじゃなくて、等身大のレスラー同士の抗争もあったりとか、いろんな団体の良いところを詰め合わせていこうってなった。」

そこから現在に繋がる路線を決め、団体はその役割を担う人材探しに奔走する。そして、ある新人との出会いがDESTINYの"運命"を変えた。

X氏「ある時、凄い新人のスカウトに成功した。彼を見るなり、これは将来的に大スターになるだろうってね。だから彼に役割を与えてスターにして行こうって。とにかくウチからスターを出したかった。団体の色を体現するスターをね。その彼は体格、身体能力も素晴らしく、しかも肝も据わっていた。そう、スターに必要な資質を兼ね備えていたよ。」

その新人は寡黙で自分を主張するというよりも、技術で魅せる職人気質のタイプだった。練習熱心で真面目、だからこそ芯の強さを漂わせていた。彼は幼少期からプロレスラーになりたいという夢を持ち続け、それを叶えるためにレスリングに没頭し、大会にも出場して好成績を収めていた。また、プロレスに活かすために総合格闘技なども経験していた。そう、彼はプロレスラーになるために直向きな努力をした純粋な若者であった。その結果、彼のバックボーンには確かな説得力を持ち、王者の風格すら備わっていた。

X氏「それでみんなで意見を出し合って、そういった超自然的な世界観というか、ファンタジックさで勝負するなら、主役は神話の英雄みたいにしようってなって。それに彼ね、今のプロレスのスターって派手で自分を主張するタイプが求められるけど、それよりも古典的なスターみたいに実力で魅せるタイプの方がしっくりきたんだよ。だったら、その古典的なスター像と英雄ヘラクレスをかけ合わせようって。独自のスターを生むためにね。そして彼は見事にその役割を果たしていったよ。」

彼は神話の英雄ヘラクレスの別の読み方である、ハーキュリーズの名前を与えられた瞬間、団体の顔となったのである。

そもそもDESTINYはマスクマンの多い団体でベビー、ヒール双方に存在している。マスクマンというのはある意味、プロレスの象徴(アイコン)だ。そのマスクマンにプロレスの古典的なスター像と神話の英雄像を掛け合わせて誕生したのがハーキュリーズである。それを団体の顔として据えたことが、団体の独自性をより強めたと言える。

また、彼の寡黙かつ職人気質というパーソナルがハーキュリーズにミステリアスさをもたらしていた。

X氏「それが上手くハマったんだよ。ミステリアスな英雄ってのは、なんか知りたくなって追いかけてしまう。まぁ、ヒーローものでは謎のヒーローってのがあるからね。しかも団体は彼のプライベート情報をひた隠しにしたよ。正体は一切明かさないということで、よりそのミステリアスさに拍車をかけたんだ。全盛期にはそのミステリアスさが神々しい域までに達していたよ。今となってはそれが彼を苦しめていた部分もあったんだと思うけどね・・・。」

いつしかハーキュリーズのミステリアスさはカリスマ性に昇華されていたのである。

キャリア全盛期とDESTINY帝国の繁栄

ハーキュリーズを団体の顔=看板選手としたDESTINYは徐々に業績を上げていき、ハーキュリーズ観たさに多くのファンが会場に押し寄せるようになっていた。団体の狙い通りである。 

ハーキュリーズはベビー級で、得意技はスープレックス、ジャーマン、ボディスラムなどの投げ技とチョップ、ドロップキックなどの打撃技、それにスリーパー・ホールド、フィギュア・フォー・レッグロック(四の字固め)などの関節技である。フィニッシュ・ムーブはパイルドライバーとキャメルクラッチだった。ハーキュリーズは基本や定番の技を多用したのだ。キャラクターはミステリアスだが、レスリングは正確かつ分かりやすく、豪快だった。そんなハーキュリーズは抗争相手と名勝負を繰り広げていく。だからこそ、単にそのキャラクター性だけでなく、実力も含めてファンに受け入れられたのだ。

そしてついに団体は最高王座であるDESTINY王座の設立を発表、それと同時に後の「ドリーム・ロード・トーナメント」に繋がる、DESTINY王座決定戦トーナメントを開催する。白熱した戦いが繰り広げられた結果、トーナメントを制したのはもちろん、ハーキュリーズだった。彼はDESTINY初代王者としてその名を刻んだのである。

f:id:defensedragoncreation:20230414022653j:image最高王座であるDESTINY王座ベルト

さらに業績を拡大した団体はPPVの開催を年12回=月1回行うようになる。まさにこれこそ、ハーキュリーズが団体にもたらした最大の功績であり、いつしかそれは英雄ヘラクレスが果たした12の功業にちなんで、ハーキュリーズ12の功業と呼ばれるようになった。

f:id:defensedragoncreation:20230226125540j:imageDESTINYで行われる全12回のPPV=ハーキュリーズ12の功業である

X氏「それに関しては誰が言い出したのかは分からないけど、いつの間にかハーキュリーズの代名詞となっていたよ。だから当時、全盛期でありながらすでに伝説の域にまで登りつめてた。いや、ファンだけじゃなく、俺たちも日々、伝説を目撃してるワクワクがあった。運営側なのにね(笑)しかも意図しなくとも、本当のヘラクレスと繋がったのにはビックリしたよ。12という数字ね。案外、そういうことってあるんだよね。現実とリンクする瞬間がさ。」

ハーキュリーズは小国にすぎなかったDESTINYを帝国にまでのし上げた。帝国DESTINYから去ってしまった今もなおファンはDESTINY=ハーキュリーズと思い浮かべるくらいの存在、つまりそれは一時の主役には収まらない、永遠に語り継がれるDESTINYの象徴なのである。

ハーキュリーズはその実力と自らのカリスマ性、さらには団体の顔であることに誇りを持っていた。しかし、そんな彼の誇りを揺るがす存在が意外な所からやってくる。

想定外のビッグバン

ハーキュリーズが強烈なスポットライトを浴びる中、その影でもうひとりのスーパースターが誕生しつつあった。その彼はハーキュリーズのように最初から期待された存在ではなかった。ハーキュリーズと同じくマスクマンで活躍し、実力には定評があったが、あまりパッとせず引き立て役となっていた。因縁の無い相手との試合でも全力で引き立て役に徹し、名勝負を繰り広げたのである。

しかし、そんな彼にも転機が訪れる。あるギミックが与えられたのだ。それは団体に所属するレスラー、または有名なレスラーのフィニッシュ・ムーブを勝手に拝借して繰り出すという非常に掟破りなギミックだった。そう、"ザ・フィニッシャー"の誕生の瞬間である。

X氏「かなり実験的なギミックだよね(笑)というか、最初は"イロモノ"のつもりでやらせてみたんだよ。でもこれが意外に大ウケで。というか、どこかファンも悪ノリ的な部分もあったよ。でも瞬発力では一番これが盛り上がってたかもしれない。最初、彼はかなり控えめだったんだけど、この役割を与えられてから一気に弾けたよ。吹っ切れたんだね。プロレス的な魅せ方が爆発したんだよ。」

王道を行くハーキュリーズと意外な角度から爆発したフィニッシャー。もしこのまま行けば、実力のハーキュリーズと人気のフィニッシャーという2大巨頭になっていただろう。 

ハーキュリーズはフィニッシャーに対してほとんどの点で優れていたが、ある一点だけ、フィニッシャーの方が遥かに優れていた。そう、マイクパフォーマンスやキャラクターの主張である。

X氏「ハーキュリーズはそこが下手なんだよ(笑)だからこそ、長々と話させず、実力で魅せるキャラクターにしたってのはあるんだよ。苦手を克服するよりも、長所を最大に活かしたんだ。それに比べてザ・フィニッシャーはその辺が抜群だった。まぁ、そもそも実力もあるんだけど、やはりハーキュリーズの方が全体的に優ってる。でもフィニッシャーのキャラクターの主張力はそれだけでもハーキュリーズと対等の存在にまで上り詰めてたんだよ。」

また、フィニッシャーはマスクマンのフライ・キッドとタッグとしても活動し、そこでも自分の存在をアピールしていた。

そして人気を獲得したフィニッシャーはそのギミックを捨てて正統派のスタイルとなり、ついに"イロモノ"からの脱却を果たした。フィニッシュ・ムーブはフィニッシャー・バスター(裏投げに近い技)、得意技はレッグ・ドロップとスーパーキックで、魅せ技を上手く生かしつつ、咄嗟のカウンターで会場を沸かせるなど、本来の実力をシングルでアピールするようになっていた。

新旧スター対決前夜の英雄

真夏の熱気の中、ついに2人は相見えることになった。この新旧スター対決のカードが発表された時点で、かなり期待された一戦だった。だが当時のハーキュリーズはかつてのような輝きはなく、精彩を欠いていた。

この頃のハーキュリーズは興行のメインを飾ることは減り、その上DESTINY王座戦線から外されていた。

かつてはDESTINY初代王座として長期政権を築くという、その防衛ロードはまさに"ヘラクレス12の試練"とも言えた。その後、王座陥落することがあってもすぐさま返り咲く、DESTINY王座戦線の常連だったのだ。団体の顔、最も輝かしい成功を収めたハーキュリーズは徐々に自分のエゴを主張するようになっていたのである。

X氏「この頃の彼はね、上層部の決定やストーリーにああだこうだ口を出すようになっていた。スターになって増長したってよりは多分、精神的に追い詰められていたのだと思う。団体の顔としてのプレッシャー、期待されるけどミスはできないとか、やっぱりまだ若かったんだね・・・。まぁ、それをこなしてこそ、真のスターなんだけど・・・。自分に都合の悪いストーリーや役割を拒否したり、なかなか納得しなくなってた。だから懲罰的な意味でこの頃は王座戦線から外されたんだよ。

新旧スター対決について、多くのハーキュリーズファンはハーキュリーズの勝利を予想した。それにこの頃はまだ、ハーキュリーズの"裏の素行"についてはファンには漏れ伝わってはいなかった。メイン戦出場の減少と王座戦線から外れているということについてはスランプと捉え、ここで勢いに乗るフィニッシャーを抑えることでハーキュリーズ復興の起爆剤となる、つまりそのために組まれた一戦であると・・・。ハーキュリーズファンの視点ならば、その予想は理に適っているように思える。だが舞台裏は違った。

X氏によると、この試合はフィニッシャーの"勝ちブック"が予定されており、決め手はフィニッシュムーブのかわし合いからの丸め込みによるピンフォールだったという。

ある意味、丸め込みによるピンフォールはダメージの少ない負け方だ。フィニッシュ・ムーブを受けてのピンフォール負け=完璧な負けだと、ファンに世代交代を感じさせることになる。その上、団体もかなり煽っていた一戦だった。だからこそ、丸め込みで勝利したフィニッシャーには"将来的な世代交代の可能性"を匂わせつつ、ハーキュリーズにはこの一戦では不覚を取られたが、"次は返り討ちにする可能性"という含みを持たせて、次に繋げようとしていたのだ。

もちろん次の展開はすでに構想済みで、後にハーキュリーズは王座奪還を果たし、挑戦者フィニッシャーを返り討ち、つまり王者としてリベンジを果たすという筋書きが用意されていた。

しかし、この構想はX氏や上層部のみが知るところで、ハーキュリーズ本人にはまだ伝えられていなかった。それはハーキュリーが"反省期間中"ということであり、それを知らずしてハーキュリーズは来(きた)る、フィニッシャー戦においての自身の負けブックを"表面上"では了承した。 

フィニッシャーの顔面を捉えた正確すぎる右ストレート〜ハーキュリーズ・シュート事件〜

ハーキュリーズvsフィニッシャー戦はPPV「シャドー・オブ・ザ・サンシャイン」のメインイベントで行われた。皮肉にもハーキュリーズにとっては久々のメインである。

先に入場したフィニッシャーはいつものように花道でアピールしながら、リングに上がってハーキュリーズを待ち構える。両者はまだ顔を合わせていないが、場内は期待と緊張感に満ちている。これから時代が動く瞬間を目撃するのか、それともかつての英雄が復興するのか・・・。この時はDESTINY最大の闇を目撃することになるとは誰も予想だにしなかった。

そして、ついにハーキュリーズの入場曲が満を辞して鳴り響く。観客は一切に声援を送った。

入場口からハーキュリーズが姿を現したのだが、どこかいつもと違っていた。いつもは優雅にアピールを決めて入場するが、この日はアピールもせず、殺伐とした雰囲気を漂わせて真っ直ぐリングに向かっていった。

それに対して会場にいた者はあくまで演出と捉えていた。新しいスターとの一戦に気合を入れているのだと。後から見れば、ハーキュリーズが"本気で仕掛ける"という覚悟を決めている様子だと判断できる。

両者、リング上で睨み合い、試合開始のゴングが鳴る。お互いロックアップをせず、間合いを取る。それはビッグマッチによくある、間をたっぷり使う演出に見えた。

だが次の瞬間、フィニッシャーの顔面に正確すぎる右ストレートが入る。

ハーキュリーズは明らかにプロレスの範疇を超えたパンチを放ったのだ。失神とはならなかったものの、それを受けたフィニッシャーは片膝をついて蹲る。レフェリー、実況、観客、その場に全員が困惑した。そう、ハーキュリーズはフィニッシャーにシュートを仕掛けたのだ。

しばらく間を置いた後、フィニッシャーはふらつきながらも立ち上がり、試合続行の意思表示をする。レフェリーは困惑しながらも、試合を続けさせた。フィニッシャーはファイティングポーズを取っているが、不意打ちの顔面パンチにより平衡感覚に支障をきたしているようだった。ハーキュリーズはそれを察知したのか、すかさずテイクダウンを奪い、パウンドを浴びせる。鼻にパンチが当たったのか、フィニッシャーはマスク越しから流血し、ハーキュリーズの拳に巻かれたテーピングは真っ赤に染まっている。

ついにレフェリーはハーキュリーズを制し、さらには入場口から試合を終えたレスラー(ベビー、ヒール関係なく)が大勢やってきて、ハーキュリーズとフィニッシャーを囲む。それから遅れてGMと数名のスーツ姿の上層部の人間が現れ、事態の収集に努める。そしてリングアナに指示を伝え、リングアナは"ノーコンテスト"と発表。観客からはブーイングが聞こえてくる。それにこの状況をまだ飲み込めていない観客もいた。いずれにせよ、この一戦の期待は右ストレートを皮切りに裏切られたのである。

顔を殴られ、なす術の無かったフィニッシャーはレフェリーやレスラー達に囲まれながら、バックステージに消えていった。本気のパンチを食らいながらも試合続行の意思を見せたフィニッシャーだったが、その時の記憶はなかったようだとX氏は証言している。どうやらフィニッシャーは本能で戦う意志を見せたようだ。

真夏のPPV「シャドー・オブ・ザ・サンシャイン」は不穏に幕を閉じたのである。

フィニッシャーはこの試合により顔面を負傷、2ヶ月間欠場することになった。シュートを仕掛けたハーキュリーズについて、DESTINYは団体を離脱したことを発表。英雄は去っていったのだ・・・。

何も語らずに去った英雄と新たな団体の顔

なぜハーキュリーズはフィニッシャーにシュートを仕掛けたのか?

X氏はフィニッシャー潰しの意図があったのではと証言する。それについてはさまざまな考察と一致する。あの場でフィニッシャーを潰すことで自身の地位を守ろうとしていたのだと。

ハーキュリーズは団体に対して自身の扱いにフラストレーションを感じる中、フィニッシャーに対しても不満を漏らしたことがあったという。キャラクターだけで成りあがってきたアイツは認められないと。

自分よりもマイクパフォーマンスが上手くて主張力のある者が自分が精彩を欠いてる間に実力をつけ、自分の地位を脅かす存在になりつつある。それだけでなく、自分がこの団体に大きな貢献をもたらしたのに、自分を蔑ろにした挙げ句、アイツにチャンスをやれと。自分よりもアイツを取るというなら、ここで潰してやる・・・。あのパンチにはそんな意味が込められていたのだろうか・・・?

これはあくまで憶測であり、本人の口から語られない限り、詳しい理由は分からない。

確かにこの業界では時代を象徴するスーパースターが新世代のスターに敗れて世代交代をするのが常である。後進に道を譲るのだ。ハーキュリーズは自分こそがDESTINYの顔であり、主役でありたかった。記録を辿れば、抗争相手にピンフォール負けを喫したことは多々ある。だが、自分の地位を脅かす競合相手には勝ちを譲ることは出来なかったのだ。そのために取った行動は自分の立場をより一層悪くするものにしかならない。

だが当時のハーキュリーズには冷静な判断をする余裕がなかった。ハーキュリーズにエゴがあったのは否定はできないが、X氏の言う通り、若さ故の過ち、またプレッシャーなどによって精神的に追い詰められていたのだろう。

その一戦以降、ハーキュリーズは何も語ることなく団体を去った。現在どんな活動をしているかは分からない。名前を変えて他団体のリングに上がっている様子もない。

ハーキュリーズの去就の経緯について、X氏はこう証言する。

X氏「当初は団体への貢献を考えて、謹慎処分が濃厚だったんだよ。けど、本人が辞めるの一点張りで・・・。」

この一戦で負傷したフィニッシャーは復帰し、団体の顔となった。それから総合格闘技からやってきたニック・リーガンをDESTINY最大のPPV「インフィニティ・ポッシブル」にて、団体の顔として迎え討ったのだ(その前にドリーム・ロード・トーナメントの1回戦で対戦し、両者ドローとなっていた)。その抗争中、リーガンの「DESTINYはフェイク」(フェイク発言事件)という挑発に対し、フィニッシャーは「フェイクのために命を懸けてるヤツはここにはいない」と切り返した。

しかも、その試合内容は壮絶でノーDQマッチながら凶器を使用せず、お互い殴り合い、投げ合い、実況席、リングサイドの防護壁を破壊するという、ルール無しのケンカ戦であった。最終的にリーガンのパワーボムの体勢から、カウンターのギロチン・チョークでフィニッシャーが失神KOを奪い勝利した。

X氏「ハーキュリーズが居なくなってから、俺も団体を離れた。情熱がなくなっちゃったんだよね・・・。それから、しばらくDESTINYは見なかった。見たくなかったね・・・、だって辛いもん。彼の居ないDESTINYを受け入れることはなかなか出来なかった。でもちょっと前にニック・リーガンとフィニッシャーが試合するっていうから、久しぶりに見たんだ。いや、フィニッシャーは成長したね、一回りも二回りもデカくなったよ。だって団体の顔でしょ?でもさ、ハーキュリーズだったら、どうなってたんだろって思っちゃったんだな。DESTINYの顔としてハーキュリーズがリーガンと戦う・・・。でもフィニッシャーは凄かった。いや、素晴らしかったよ、本当に。」

才能に恵まれ、団体から溺愛された、最も輝ける者・英雄ハーキュリーズ。今でもハーキュリーズファンは彼の復帰を期待している。しかし、その未来については神のみぞ知るということであろう。

最後にX氏からハーキュリーズについて衝撃的な証言を得られた。

X氏「彼は最高のスーパースターだったよ。でもまだ若かったからってのはあったんだけど・・・、その若さっていうのが・・・、悪い方向に行ってしまったんだな。残念だよ。俺たちは彼の素顔を知ってるんだが、とても男前なんだよ。素顔でも十分にやっていける。これ知ってるかい?いや、もしかすると初出し情報になるのかな・・・。実は将来的に彼を素顔で活躍させることも考えていたんだ。そして後に映画出演させることも考えていたよ。正真正銘のスーパースターにしてやりたかった・・・。でもまぁ、もう二度と彼みたいな才能を持った人間は現れないんじゃないかな。彼が居たあの瞬間は、まるで自分の人生の全盛期だったような気がするよ。」

DESTINY最大の闇であるハーキュリーズ・シュート事件、それは真夏のPPV「シャドー・オブ・ザ・サンシャイン(太陽の影)」でのメインイベントで起きた。それにより誰もが望まぬ形での世代交代が起き、ある意味ではPPVのタイトルの通りになってしまった。ハーキュリーズは太陽のような存在でありながら、闇=影の中へと去っていったのだ。

時間は残酷な決定を下す。しかし、それと同時に寛大な決定も下す。

ハーキュリーズとフィニッシャーがDESTINYのリングでもう一度、顔を合わせ、かつて期待したあの一戦を繰り広げてくれることを願って、この時間の中に身を委ねよう。